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物体としての書物は、なによりもその多くを闇におっている。闇を開く手つきが日の光と意志という光を招き入れることで、夢見られていたものが灯り、この世に特別な紙片、ページがあらわれる。
この点において、書物とは光によって身を結ぶひとつの秩序のかたちでもある。
光が呼び出した秩序は、さまざまなものをそこに結びつける。文字や図版、地図や写真、線、インクの染み、紙の凹凸、物語、歴史、記憶。川面のごとく常に揺れ動いているページがこちら目がけて反射したとき、我々の精神はふいに天秤にかけられてゆらいだり、反射した先にある世界の存在を察知したりする。
闇の奥から立ち上がってくるものたちは、それぞれに正確な距離を手にするまで、書物の「意味」という美しい総体には還元されない。それは、世界が羊水のなかで期待され夢見られている状態、
あるいは世界が手の内に身を結ぶことそれ自体を祈るような時間として、読まれるものの前に属している。
窓辺で書物をめくる手のはこびが、宇宙の闇のなかにそのとき限りの愛すべき現象を生み出す所作であったならば、我々がひらくものは奇跡の別のあり方とでも呼ぶべきものなのかもしれない。
ともあれ、私たちは読まずともその時間を記憶の担保として生き、書物はその時間のなかを静かに揺らぎ続けているはずだ。
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「窓辺」部分 4 : 31
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