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土星の環 -自然の鉛筆-
Rings of Saturn -The Pencil of Nature-, 2017, lambda print
土星の環は、土星のまわりの赤道面を円形軌道を描いて公転する氷の結晶や隕石と思われる細かい塵状の粒子からできている。これらは惑星に近づきすぎたために惑星の潮汐力によって破壊された衛星の破片である可能性が高い(→ロシュ限界)。『ブロックハウス百科事典』
(『土星の環』W.G.ゼーバルト、鈴木仁子訳)
書物と写真の接点としての写真集には、ひとつの「現像」のかたちが内在している。
つまりは、ページをめくり、空間を開いていくこと。光と距離をその水脈に正確にひきこんで、目に見えなかったものを見えるようにすること。写真はページをめくる手によって、再び眠りから覚める。
だから、世界初の写真集と評される『自然の鉛筆』は、ただ単純に書物の分野に新しい可能性の地平を開いたのではなく(そもそも書物が生まれたときにその可能性は既に書物の側に潜在していたのだから)、あらたな写真の現像のかたちとして、イメージがこの世に滲み出す時間を光のもとに導き出したのだとも言える。
『自然の鉛筆』の著者ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットの写真は、歴史に刻まれたその名とともに、今や多くの「別」の書物に掲載され、それぞれの書物の編集の意志によって、文字通り色やかたちを変えながら偏在している。
無数に飛び散った「破片」は、しかし書物の上にある限りにおいては、その飛び散ったままに「自然の鉛筆」という中心(その中心は複数だとも言える)をもつ、ひとつの「環」を構成している。漆黒のなか、ちりじりの「破片」であると同時にうつくしい「光の環」を成している土星のそれのように。


















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