top of page
花屋で買い求めた切り花は、人の営みのなかで脈々と受け継がれてきた原初的な儀礼の集積、またはその後塵として、部屋の片隅にある。弔いや祝福、あるいはそれすらも超越した「何か」を志向して、人はそれを束ねてきた。人間の行為と自然をハイブリットした生(なま)のものを媒介とすることで、その「何か」は、たとえば言葉の広がりを超えて意味を四方へと放射させ、複雑にするとともに、曖昧なものを曖昧なまま緩やかにつないできた。
レンズ越しの切り花は、窓辺を吹く風に揺れ、距離による出現と消失をくりかえす。それは洞窟のなかで手にされた獣脂のランプの火のごとく、昼の光の中で束ねられた「光線」として、昼間の闇を揺らいでいるように思える。そしてそれ自身もまた、弔いや祝福、愛や豊かさが指し示す世界の「遠さ」に似ている。
bottom of page